コロナ禍で一年が過ぎるが、26日に本園恒例のMS定期演奏会が開催される。昨年は、演奏会前日に全国一斉休校が突如要請されるという混乱の中、急遽学年毎の入れ替え制等の対策をとり開催した。今年も制限のある中ではあるが、苦心・工夫して二部制での開催である。園内では、先週水曜日にリハーサルを行ったが、リハを聴く前までは「果たしてどこまで仕上がっているだろうか」と心配した。その理由は、4,5月の長期休園の影響である。休園期間中から教育の継続性への影響を危惧したので、休園中のWEB配信、夏休みの短縮、祝日も返上して保育日数の確保に努めてきたが、それでも例年より数日ほど保育日数は少ない。たかが数日、と思うかもしれないが、教育は日々の積み重ねである。子供の脳育ての観点からすれば、脳への刺激・インプットの量はアウトプットに直接影響する。それを補う方法としては、例年よりも前倒しで演奏会用の曲を練習する手もあるが、ダラダラと長期間行う練習ほどつまらないものはない。それにMS定期演奏会開催の意義にも反するように思う。ここで保護者の皆さんにもMSと定期演奏会開催の意義について再度認識して頂くのもよかろうと考えたので、次のとおり記すことにする。
私は年度末に行う定期演奏会を子供達の総合的な成長ぶりが確かめられる集大成の催事と位置付けている。人間の脳は10歳でほぼ大人レベルに成長し、3歳や6歳はそれぞれ脳の発達上重要な節目でもある。事実、この時期はどの子も表現力も高まり、表情や態度、振る舞いもきびきびして成長ぶりが著しい。日々のMSカリキュラムの体験による音感定着等は勿論だが、集中力等の精神力の向上も伺え、様々な活動にもその良い影響が表れてくる。MSの日々の連続体験が脳の成長に多大な影響を与えていることは明白である。
MSは実践して38年が経過するが、当初は高度な音感体験が子供の脳にどんな意味があるのかの考察は乏しかった。脳科学の研究も発展途上で、子育てでの明解な指針は少なかった。幼児教育の傾向も「欧米の幼児教育に追随する視点」が主流で、当時の私の心には響くものが少なく、園開設当初は自信を持って良き子供に育てるための具体的方策が見当つかず日々悩んでいた。それでも感覚機能を利用することを重視して体育活動では成果も現れ、運動神経を刺激する感覚体験で保護者からの共感も得た。また、母国語の獲得は生後から4,5歳までが重要と捉え、漢字教育を取り入れてみた。すると、運動も漢字も幼児期の成長度合いに適した生活体験なので、どの子にも想像以上の成果が表れた。このことに意を強くして、感覚体験の極みであるMSの音感学習体験に出合ったのである。MS成果は実践の直後から感じられた。まず、集中力が増して音が分かるようになると、心の向け方にも変化が表われ素直さも向上した。歌うこともリズム遊びも楽しそうで喜んで意欲的になり、子供の育ち全般に効果が波及することが感じられた。正に感覚学習は幼児期が最適の適時教育体験であると実感したのである。指導者は特段音楽的素養に恵まれている訳ではなく素人同様で課題も多いが、テキストの課題が幼児に適っていて子供も先生も喜んで取り組めた。良かった点はスタッフが真面目に愚直にカリキュラムを毎日消化したところにある。指導の上手い下手は上手いに越したことがないが、それより課題の実践を自分の成長、子供との成長と捉えてインプットを続けた所にあった。幼児の脳は日々の具体的な課題を実践する生活体験の蓄積で育つ。幼児期の適時教育体験であれば、どの子もしっかり育つと確信できるようになった。
昨今は脳科学者がメディアに数多く登場し、「脳科学視点での子育て」が随分と一般化している。本園での様々な取り組みがそれらの著書を通して、脳科学の成果とほぼ一致することも判明して、何だか励まされた思いである。脳科学では「子育てに正解はない」と言う通説は存在しないそうである。必ず「正解」があるというのであればその責任を果たせるよう日々の環境をしっかり整えることが肝心と考えるのである。
話は戻って、リハーサルを聴いてみると、心配及ばずであった。例年、リハーサルは練習開始後3週間程度としているので、演奏自体は発展途上であるが、スタッフには「例年通り、寧ろ、それ以上の出来にある」と話した。私も嬉しく、様々な制約がある中よくここまで指導してくれたと安堵した。幼稚園や保育園の行事も根拠のある子育ての一環として捉えているので、コロナ禍の制約は色々残念である。本来であれば、3歳から育みの小学生クラスまで通してご覧頂きたかった。他の子供の成長の様子を見ることで、我が子の成長の「その先」が見えれば、子育てに希望を貰えること受け合いである。是非、一年間の成長ぶりを確認されて喜んであげて下さい。私もこれまで行事の都度、日々の練習やパーフォーマンス等から子供達から沢山教えられた思いです。今年はどんな発見があるか楽しみです。当日の子供達の頑張りに期待しましょう。
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